2020/3 出版流通学院
売場規模が小さい書店だと雑誌とコミックの在庫が多いって、みなさん、気づいていましたか?
私が子供のころ通っていた商店街の書店さんも、やはり同じで、雑誌がほとんどでした。
売場の構成が以前から同じというのは、何か事情がありそうですね。
今回は、小規模な売場の書店で雑誌が多い背景を、売上効率の側面から見てみます。
小規模の書店が多かったのは1980年代まで?
今でこそ、「書店の大型化」などといわれていますが、大型化が始まったのは1980年代の大店法の規制緩和がキッカケで、特に郊外地域での規制が緩和されたことによります。
おりしもこのころは出版業界の景気もよく、郊外型書店の出店も進んだ時代でした。
ちなみに書店業界の郊外店の第1号といわれているのは「三洋堂書店」といわれています。
と、いうことで、「小型店書店」、「商店街書店」、「駅前書店」などが主流だったのは1980年代までというのが一般論です。
当時、雑誌は売れていたのか?
実は、1980年代当時も雑誌の売上金額構成比は3割程度で今とそれほど変わりません。
取り立てて雑誌を書店のメインに据えていたのは、お客さんの購入頻度が高いからでした。
当時は「雑高書低」といわれた時代で、雑誌の売上の方が好調な時代でした。そうなれば、自然と売場は雑誌が多くなりますよね。
特に、雑誌には刊行形態というものがあり、「週刊誌」は毎週発行で年間50回ほど発行され、「月刊誌」は毎月発行で年間12回発行されます。
つまり、雑誌はお客さんからの「銘柄指定の購入確率が高く」、「気に入ったら継続して購入する定期性が高い」ジャンルだったのです。
限られた売場面積の中で、効率的な販売をする上でも、お客さんの来店頻度、購入頻度、定期性のある雑誌が、書店の経営の土台になっていたのです。
書店経営の土台が雑誌とはどういうこと?
ここからは計数的な観点から見てみます。
みなさんの中には、商品は粗利益率の高さが最も重要な項目だと思っている方もいるでしょう。
それに加えて、もうひとつ大事なのが商品回転率なんです。
では、商品回転率が利益を生むイメージを下記の図にしました。
仮に価格が同じだとすると、年間の商品回転率が12回の月刊誌と、52回の週刊誌を比較すると、約4倍の売上・利益の差が出るのです。
では、商品回転率の調査で一番古い1980年(昭和55年)の資料を見てみます。
当時の商品回転率は、
雑誌 25.4 回、書籍 3.3 回、合計 6.3 回となっています。
参考までに下記は2019年版の売上構成比と商品回転率です。
雑誌の利益の差を当時と比較する
1980年の資料数字をもとに、雑誌から得られる利益の差をシミュレーションしたのが下記の表です。
※ シミュレーションのため数値は簡略にしています
雑誌の商品回転率に注目してください。
1980年は年間25回転だったのに対して、現在は7回と、実に3分の1に減少しています。
言い換えると、1年間の販売期間が12か月間だったのが、たった4か月間だけになってしまったという事です。
雑誌と書籍の合計で見ても、利益は3分の1に減少しています。
この意味で、当時の書店経営は雑誌の高回転率から得られる利益が支えていたと言えます。
雑誌の低迷は書店経営にとって極めて大きなインパクトになりました。
書店経営を支えていた「雑誌の利益」に変わる、新しい「モノ」や「コト」を早く取り入れ、従来とは違う経営に転換していくことがこれからの書店経営のテーマと言えますね。
まとめ
小規模な書店に雑誌が多かった背景は、「小さい書店=雑誌だけ」という事ではなく、当時の雑誌ブーム、利益面、消費者の購入特徴などによるものでした。
最近の「本との出会い」の主役は書籍にかわっていますが、まだまだ雑誌もおもしろいですよ。
(私の尊敬する大先輩が「雑誌は専門の人が読む専門書の一部なんだよ」と話していたことを思い出します)
今日の帰り道は、いままで手にしことのない「知らない雑誌」をめくりに書店に行きませんか。